【科学記事メモ】2万5000年前に絶滅したホラアナグマのDNAが現生のヒグマのゲノムの中で見つかる

【科学記事メモ】8月27日付けの学術誌「Nature Ecology and Evolution」の記事によると、2万5000年前に絶滅したホラアナグマのDNAが現生のヒグマのゲノムの中で見つかりました。下手すると、ホッキョクグマもグリズリーとの雑種が生じているそうですし、ホラアナグマの二の舞になるのかも知れません。
  ちょっと気になるのは、「種間雑種はごく普通に行われており、生殖隔離を主体とした生物学的種概念は間違いである。」という生物観が流布されはしないかという点です。いかにも科学ジャーナリズムが飛びつきそうな話題です。種分化しかかった集団(もしくは、近縁種)どうしが融合してしまう事例は、現代では、ガラパゴスフィンチなどでDNAレベルでも証明さていますし、驚天動地の現象ではありません。やはり、進化総合説を否定するような事象をして「ダーウィン進化論は間違いだった。」とかブチ上げる手合いが沢山でてきそうな悪寒です。
  元論文を読んでみたものの、基本、これまでの集団遺伝学で知られていた「遺伝子浸透」と呼ばれる現象と同じ事象ではないか、根本的に遺伝浸透とどこが異なるのか説明が無い。と感想を持ちました。生殖的に隔離された近縁種が接触している場合、まれに交雑して子供が生じることがある。その子供が、元種ともどし交配が可能だった場合、元種の集団の中に別種の持っていた遺伝子が拡散してく結果を招く。この現象を遺伝子浸透と呼んでおり、交配の頻度が高いような場合、別種の持っていた遺伝子が全ゲノムの数%を占めてしまうこともあります。遺伝子浸透は、動植物を問わず、広く観察されてきた現象です。この遺伝子浸透現象を以て、「生物学的種概念や進化総合説は覆された」などとは言われておりません。どうもNature Ecology and Evolutionの記事を読むと、いささか「煽り」の要素が強い印象を持ちました。
  1980年代にグールドやエルドリッジあたりが言い出した断続平衡種分化理論も、一時期は、「ダーウィン進化論の否定」ともてはやされましたが、結局、大御所のエルンスト・マイヤー大先生みずからが周縁小個体群種分化理論をぶつけて火消しをしてしまったという経緯がありました。

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